震災遺構考「気仙中」@陸前高田

遺構が要。防潮堤と国道と川の軸線上に何を見るか。

8月

 

結局のところ、

震災遺構にしか、民間で保持する文化財の保管にふさわしい場所がない。公共物もやはりそう。

昨年夏、嵩上げに伴う現道最後のけんか七夕を記録した陸前高田市気仙町で、今年は気仙川を挟んだ対岸で一度だけ行うその祭りを空撮した。嵩上げで県文化財の祭りの山車の格納場所がどこにもない。川を挟んで町と祭りをつないでいた姉歯橋の上部工は津波で流出し、皮肉にも旧国道と河川堤防の交差部に、防災用のステンレス製の樋門(ひ門)だけが残ったのを、架替工事に伴う既存解体中の今しか、その現物を保管することを以って「事」を伝えるタイミングが他にないと思った。

 

 

気仙町の人々と連名で市に要望書を出したのは、夏の終わり。山車と樋門部材を震災遺構「気仙中」に仮保管を願い出る内容だった。

 

嵩上げが進む今現在、伊達藩の護衛のために足軽鉄砲隊が駐在した古い歴史のある町並みは、津波で完全に崩壊して跡形もないけれど、そこに残った道や井戸や建物の痕跡は、私が町を理解するには大事な手がかりだった。敵に攻め込まれた時の防御のために計画された鉤型道路の曲がり角で、祭りの山車が「山!」「川!」との威勢のいい掛け声と共に一斉に梶を切るのが最大の見せ場だと、皆口を揃えてそう言う。

 

まだ築造中の嵩上げ地にできる新しい町と、復元される大肝入屋敷や一部の形状が移された鉤型道路との間の、大きすぎる時代の隔たりを埋めるものが「祭り」なんじゃないかと、私は思う。

 

だから、解体を撮るはずだった学校が震災遺構となった後、嵩上げで校舎と同じ位の高さになった道の遠く向こうから迫ってくる祭りの山車を、屋上から見たいと願うんだ。


 

10月

 

けんか七夕の山車を母校「気仙中」に格納する。

陸前高田では「七夕は8月7日」と決まっている。仏教に由来して先祖の魂を慰めるためのものだから、日を変えないのだという。平日ならば仕事を休み、復興事業者も現場を休止して協力する。高田の「動く七夕」と気仙町の「けんか七夕」がそれぞれの運営体制で同日開催される祭りの日は、被災地から発する気迫に魅了されて、県内外から大勢の人が押し寄せるのだが。

 

「けんか七夕」に密着した2年間、この伝統の祭りを核として支えているのが、ほんの10人ほどの「いつもの顔」であることを私は知っている。震災の後、祭りを続ければ続けるほど、苦しむことも。市に要望書を出した後、震災後の祭りを牽引してきた村上徳彦さんは「山車を格納するのはいい機会。自分たちの代で蓄積したことを次の代に引き継ぎたい。それが役目だ。」と語った。

 

今回、気仙中に格納する山車の部材は、津波で流出後に保管された部材0.5基、昨年の「けんか」の衝撃で損傷した1基、今年使用した2基の計3.5基分。中井倉庫脇の外部にブルーシートで覆われて2年間置かれた、潮に浸かった部材は湿った木が放つ独特の匂いが鼻を突いた。補助材には不朽や蟻の害があるものの、構造本体の山車は無事だった。

 

格納作業を見守りに来た、けんか七夕祭り保存連合会の河野和義会長は「文化財ではあるけれど、本当の宝は、今こうして山車を守ろうとしている若者たちだ。」と、痛い腰をさすりながら言う。


9月

 

防災用構造物も仮保管可能に。現場内仮置中に意見を集める。

岩泉の台風10号の災害復旧現場からも考える。

市に要望書を出すために、消防団やOBらに意見を聞いて回った。時を同じくして台風10号で崩落した岩泉・乙茂の一般国道455の災害復旧現場に約1ヶ月間密着したのは、震災直後に生活道であった姉歯橋が落ち、気仙大橋が流出した陸前高田でも、24時間体制で行われていたであろう災害復旧工事と迂回路の規模を、自分の目と体でわからなければならないと思ったからだ。

 

泥に埋没した消防車、崩落した道路、流出した橋、途方にくれる量の流木、この緊急事態と惨状の中で、自分は何かを残すなどと言える状態に、今はない。しかし、震災の折、国交省では流出した気仙大橋の上部工を回収し、震災遺構と位置づけて今日まで保管してきたことは、並大抵の判断と労力ではなかったはずだと推察する。しかし、最終的な保存の判断は県にあるとして、国交省は黙して語らない。

気仙川の姉歯橋の樋門に関しては、積極的に誰かが働きかけて残したのではなく、5年経過して残っていたもの。それを解体撮影に入った一企画者が、国は残している、県は了承している、市は仮保管までの理解を示している、住民の皆さんは廃棄してよいのですか、今ならば残せます、と訴えているに過ぎない。

 

11月、県内外の学芸員の先生方に、プレゼンの機会を頂くことなっている。沿岸各域で残してきた、震災の痕跡資料をいかにして、現地に現物を、かつ公的に残せるか、専門家にぶつけてみるつもりだ。


掲載記事

2016.10.24 岩手日報/沿岸「七夕山車の部品を旧気仙中に仮置き」陸前高田・保存連合会

2016.10.24 東海新報「震災遺構を仮置き場に 気仙町けんか七夕 山車部材を気仙中に格納」陸前高田

国道45号撮影班。PR45 公式サイト
国道45号撮影班。PR45 公式サイト

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